スギダラケのパン屋さん

浜松市中区にあるパン屋さん、ラトリエ テンポの古山さんを
取材させて頂きました!
美味しいパン屋さんと地元産杉のステキな関係をレポートします!

ラトリエ テンポ http://lateliertempo.com/

■ 天然酵母のパンづくり〜店舗も地元の自然素材で
—まずはパン屋さんを開いた経緯を教えてください。

古山さん(以下K):息子が浜松でパン屋を開くことを決意し、会社をリタイヤしていた自分と家内が手伝うことになりました。東京の修行した店では自家製天然酵母でパンを作っていたので店のコンセプトを「自家製天然酵母と地産地消の素材」にこだわるパン屋としました。

店作りは自分たちでデザインしたいと考え、以前勤めていたメーカーで楽器や家具など木製品のデザインをしていた経験を活かし、お客様に親しみとぬくもりを感じてもらえるように木材などの自然素材をテーマにしたデザインを考えました。

■ 自ら内装を手づくりで
—無垢の杉材の美しさが印象的なお店です。

K:結果としては、地元産の杉を入り口のドア、床、建具、外の看板、陳列棚などに使いました。
私達が作っているパンの「天然酵母」というのは、工業的に作られたイーストと違って、発酵のテンポに人間が合わせるものです。だから、例えば「毎日10時にフランスパンが焼き上がります」とは言えない、酵母菌の発酵次第ですから。それから、地産地消を振興したいと考えてパンに使う具材も、地元で採れた旬の安全で美味しい食材をなるべく使うようにしています。

そういうこだわりを持ったパンを提供する店はどんな店だろうか、と考えたときに、人間の都合にあわせた人工的な材料は似合わないと感じたんでしょうね、今から思うと。天然素材の杉や檜を選んだのは、必然だったと思います。

とはいえ、杉を全面に使った部屋を作ると、山小屋風だったり、和風に見えたり、木の存在感がありすぎて重いイメージかなと。そこで壁面には漆喰を使ってすっきりと杉とパンを際立たせました。経費節減と手づくり感を出すため、漆喰の壁は自分たちで苦労して塗ったんですよ。

■ 材料問屋さん、内装工事屋さんとの共作
K:地元天竜杉は、森町(注1)のアマノさんから仕入れました。それから施工は神久呂(注2)の入政建築さんです。どちらも、国産材や木質の住宅作りに思い入れのある、頼もしい会社です。私は工事に関してはもちろん素人なので、杉材の適材適所や、手に触れる場所・目に触れる場所の仕上げ方法なんかは教わりながらデザインしました。

—入り口ドアの取手が杉のフランスパンなんて面白いです!

杉の角材を見ていたら、だんだんフランスパンに見えてきたので、じゃあって作っちゃいました。自分で削り出したんですよ。

注1:森町は:浜松市から天竜川を渡った北東の地区
  有限会社アマノURL  http://www.tenryusugi.jp/
注2:神久呂は、浜松市西区の地名。住所で言えば西区大久保
  有限会社入政建築URL http://www.irimasa.net/index.html

■ 什器のデザインと機能性
K:内装だけでなく、このパンをディスプレイしている棚は、実は私達の手づくりなんですよ。住宅用の柱材とJパネルといった杉の集成材パネルで出来ています。パンを載せるスノコは檜材でこちらも手づくりです。


陳列棚は固定しないでこう組み替えて、季節や陳列する量によって棚の高さやレイアウトをいろいろ替えて使えるように工夫しました。


床と同様に植物性の天然オイルで出来たドイツ製のオスモ塗料を使い、自分たちで塗装しました。 

■ お客様の反応
—お客様の反応はいかがですか?
K:まあ、パン屋なので、内装についての感想って聞いてみたことはないですが(笑)、「いい雰囲気ですね」とか「落ち着きますね」と言って頂くことはあります。私達は店頭にいる時間が長いですが、ストレスが少なく気持ちが落ち着く感じがしますから、デザインとしては成功だったと思います。

■ オーナーの想い
K:地元の杉材・檜材を内装・外装に使っている店舗は、今時は珍しいと思います。杉材を使ってもこういったモダンなデザインができるという実例として、お店を紹介するなどみなさんに活用頂けたら嬉しいです。この店が、自分たちだけの所有物という気持ちは全然なくて、オープンな気持ちですので、ぜひ気軽に立ち寄ってください。・・もちろんパンもご提供しているので、ちょっとだけ気にかけてくださいね(笑)


インタビューさせて頂いた古山さん(右)、息子さん(中央)、奥様(左)。
とてもほのぼのとした気持ちにさせてくださるご一家です。


−「自然な発酵で」「地産地消で」と考えたら自然に地元の杉材にたどりついたというのは、普段「使おう!使おう!」と声かけしている立場にとっては、ちょっとした発見でした。無理しなくても、立ち止まって考えてみれば、使いたい場面ってあるんですね。
また、じっくりと時間を掛けて旨味を引き出すパン作りと長い時間を掛けて木を育てる林業とは何か共通するものがありますね。

もう1つ面白かったのは、「森町のアマノさん」「神久呂の入政さん」と、地名をくっつけて呼ぶ田舎(浜松)の距離感。感覚的に把握できる広さでことたりる地域だけに、「ああ森町のアマノさんね!」と通じてしまうところが面白い。それくらいの規模感、私は大好き&心地よいです。

パン、おいしいです!